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住宅密集地のなかの事務所ビル
SLICEは全国の市で一番小さく、東京特別区に次いで人口密度
の高い埼玉県蕨市の住宅地に計画された事務所ビルです。今回
この計画に先立ち、もともとこの敷地にあった古い木造住宅を
解体したところ、敷地を囲む3つの建物は偶然にもまったく無
防備な裏手であることに気がつきました。特に敷地北側にある
昭和の哀愁漂う木造2階建てのアパートメントでは、建物の影
に隠れて見えなかった生活感が一気に白昼に曝されたようでし
た。これらはすべてデッドな隙間に面することを前提とした姿
、もしくはそうなったがために熟成された姿です。今回の敷地
周辺のような住宅密集地では建物は敷地ギリギリまで計画され
、民法234条1項に、「建物を築造するには 界線より五十セ
ンチメートル以上の距離を存することを要す」と定められてい
るために、自動的に建物間1mのデッドな隙間がさらにブロック
塀に半分にされ、キャットウォークのネットワークのように連
なっています。
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| 解体直後の敷地 1mのデッドな隙間が連なる裏手 |
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| 敷地は高密度の住宅街 |
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道路側にも南側にも消防用以外
開口部は無い |
見立て
今回の敷地周辺は、まるで建物群が裏手をデッドな隙間に隠し
つつ、軍隊の隊列のように敬意を表して道路や南に対し一斉に
敬礼しているようでした。そこでSLICEではこの敷地周辺の隊
列を一人ちょっと乱すことにしました。まず建物をギリギリに
計画しながらも、南にも道路にも消防用以外はまったく開口部
を設けませんでした。そしてパーソナライズされた北側のアパ
ートメントの共用廊下に正対した面をスライスし、断面すべて
を曝け出すガラス張りとしました。また特に南側からアプロー
チした際に唐突にスライス面が出現するかのように、この面の
みに鮮やかな緑色を平面的に塗りました。これは今まで薄暗く
配管がひしめき合っていた北側のデッドな隙間のオモテとして
の見立てです。これによって外に対しては非日常的な風景を垣
間見せ、そして内からは垣間見ることによって、この町のあた
りまえの文脈をほんの少しだけ変容させて、慣れ親しんだ日常
の風景の新鮮な転換を試みました。
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| 北側のSLICE(スライス)面 |
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| 上から見た北側の隙間 |
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下から見た南側の隙間 |
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建築でもできるアート的な手法
アートは、その作品自体の絶対的な価値よりも、むしろその作
品が物理的に設置された場に対する相対的な意味のほうが重要
だったりします。SLICEもその置かれた状況のほうが、建物自
体よりも多くのストーリーがあるように思えます。住宅街のな
かに公共性を帯びた事務所ビルを装入するわけですから、それ
だけでも異質ですが、ここでは宝石箱のような建築物を装入す
ることが目的とは思えませんでした。その代わり、たしかにそ
こに在るにもかかわらず無いものとして扱われているデッドな
隙間のオープンな見立てにより、この隙間を通して正対する2
つの建物の環境を見た目にも風通しの良い方向へ変化させるこ
との方がはるかに重要です。2階部分での事務所と共用廊下
の対面はすごく新鮮ですし、3階での間近に迫る屋根越しの気
持のいい風景を見れば、普段見ている道路越しのオモテの風景
とは違い、屋根の上を歩いているような気分になれます。光合
成を連想させる鮮やかな緑色とガラスで構成されたスライス面
は、非日常的な風景を映し出しながら、覗き見る視線を誘発し、
通りゆく人たちの思考のスイッチを入れてくれると思います。
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| 3階からの屋根越しの風景 |
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| 2階で正対するアパートメントの共用廊下 映し出される断面 |
| ■ 建築データ |
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PROGRAM: OFFICE
SIZE: 148.98m2 3FL
CLIENT: DIGITAL POWER STATION
REAL ESTATE PRODUCER: あすま不動産
PRIME ARCHITECT: 前川亮建築設計事務所
ASSOCIATE ARCHITECT: 向聡建築設計事務所
STRUCTURAL ENGINEER: サダリ構造設計室
MEP ENGINEER: 渡辺康宏建築設備設計
GENERAL CONTRACTOR: ニッケン建設
PHOTOGRAPHER: 冨澤公一
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