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地域で活躍するクリエイター達

前川亮 / 建築家

今回ご紹介するのは戸田市で建築設計事務所を主宰する前川亮さんです。前川さんはニューヨークの大学・大学院で建築を学び、
内装・住宅・商業施設・工場などの設計監理から設備投資に対するコンストラクション・マネージメント(CM)まで、
あらゆるクライアントの要望に対して戦略的で知的なデザイン・ソリューションを提供しています。
今回は前川さんの最新作SLICE(スライス)について、そのコンセプトを伺いました。

住宅密集地のなかの事務所ビル

SLICEは全国の市で一番小さく、東京特別区に次いで人口密度
の高い埼玉県蕨市の住宅地に計画された事務所ビルです。今回
この計画に先立ち、もともとこの敷地にあった古い木造住宅を
解体したところ、敷地を囲む3つの建物は偶然にもまったく無
防備な裏手であることに気がつきました。特に敷地北側にある
昭和の哀愁漂う木造2階建てのアパートメントでは、建物の影
に隠れて見えなかった生活感が一気に白昼に曝されたようでし
た。これらはすべてデッドな隙間に面することを前提とした姿
、もしくはそうなったがために熟成された姿です。今回の敷地
周辺のような住宅密集地では建物は敷地ギリギリまで計画され
、民法234条1項に、「建物を築造するには 界線より五十セ
ンチメートル以上の距離を存することを要す」と定められてい
るために、自動的に建物間1mのデッドな隙間がさらにブロック
塀に半分にされ、キャットウォークのネットワークのように連
なっています。

解体直後の敷地         1mのデッドな隙間が連なる裏手
敷地は高密度の住宅街

道路側にも南側にも消防用以外
開口部は無い

見立て

今回の敷地周辺は、まるで建物群が裏手をデッドな隙間に隠し
つつ、軍隊の隊列のように敬意を表して道路や南に対し一斉に
敬礼しているようでした。そこでSLICEではこの敷地周辺の隊
列を一人ちょっと乱すことにしました。まず建物をギリギリに
計画しながらも、南にも道路にも消防用以外はまったく開口部
を設けませんでした。そしてパーソナライズされた北側のアパ
ートメントの共用廊下に正対した面をスライスし、断面すべて
を曝け出すガラス張りとしました。また特に南側からアプロー
チした際に唐突にスライス面が出現するかのように、この面の
みに鮮やかな緑色を平面的に塗りました。これは今まで薄暗く
配管がひしめき合っていた北側のデッドな隙間のオモテとして
の見立てです。これによって外に対しては非日常的な風景を垣
間見せ、そして内からは垣間見ることによって、この町のあた
りまえの文脈をほんの少しだけ変容させて、慣れ親しんだ日常
の風景の新鮮な転換を試みました。

北側のSLICE(スライス)面
上から見た北側の隙間 下から見た南側の隙間

建築でもできるアート的な手法

アートは、その作品自体の絶対的な価値よりも、むしろその作
品が物理的に設置された場に対する相対的な意味のほうが重要
だったりします。SLICEもその置かれた状況のほうが、建物自
体よりも多くのストーリーがあるように思えます。住宅街のな
かに公共性を帯びた事務所ビルを装入するわけですから、それ
だけでも異質ですが、ここでは宝石箱のような建築物を装入す
ることが目的とは思えませんでした。その代わり、たしかにそ
こに在るにもかかわらず無いものとして扱われているデッドな
隙間のオープンな見立てにより、この隙間を通して正対する2
つの建物の環境を見た目にも風通しの良い方向へ変化させるこ
との方がはるかに重要です。2階部分での事務所と共用廊下
の対面はすごく新鮮ですし、3階での間近に迫る屋根越しの気
持のいい風景を見れば、普段見ている道路越しのオモテの風景
とは違い、屋根の上を歩いているような気分になれます。光合
成を連想させる鮮やかな緑色とガラスで構成されたスライス面
は、非日常的な風景を映し出しながら、覗き見る視線を誘発し、
通りゆく人たちの思考のスイッチを入れてくれると思います。

3階からの屋根越しの風景
2階で正対するアパートメントの共用廊下  映し出される断面
■ 建築データ

PROGRAM: OFFICE
SIZE:
148.98m2 3FL
CLIENT: DIGITAL POWER STATION
REAL ESTATE PRODUCER:
あすま不動産
PRIME ARCHITECT: 前川亮建築設計事務所
ASSOCIATE ARCHITECT: 向聡建築設計事務所
STRUCTURAL ENGINEER: サダリ構造設計室
MEP ENGINEER: 渡辺康宏建築設備設計
GENERAL CONTRACTOR: ニッケン建設
PHOTOGRAPHER: 冨澤公一

前川亮建築設計事務所

PROFILE&PORTFOLIO
TEL. 048・432・4202
FAX. 048・432・4204
EML.